2019/10/19

F5 1996年


先行機F4が、特にAF性能でキヤノンEOS-1、EOS-1Nに大きく水をあけられたので、ニコンとしては圧倒的性能を誇るカメラを作る必要があった。ニコンF5は、EOS-1Nを完全に打ち崩すという使命を持って生まれてきた。
機能的な特徴は、
  1. クロスセンサーの使用で5点測距を実現。
  2. 動体予測の高速化と連写時における確実性の向上。
  3. 確実にクイックリターン動作をしつつ毎秒8コマの巻上げ。
  4. 3D-RGBマルチパターン測光の実現
という画期的なものである。
センサーには従来型とは異なるCCDが採用され、被写体の輝度だけでなく、距離や色情報も加味して適正露出を演算するという最新技術が盛り込まれた。
シャッターの耐久性は、F4までの10万回から15万回に引き上げられている。

露出制御:プログラムオート、シャッター速度優先オート、絞り優先オート、マニュアル
測光方式:1005分割3D-RGBマルチパターン測光、中央部重点測光、スポット測光
測光範囲:EV0~20
露出補正値:1/3ステップ、±5EV
ISO感度設定:6~6400、 DXコード
シャッター:電子制御式縦走りフォーカルプレーン、30~1/8,000秒、B、X(1/250秒)
ファインダー:アイレベル交換式(4種類)、視野率100%、倍率0.7倍
スクリーン:交換式(14種類)
フィルム給送:モータードライブ内蔵、最高8コマ/秒
高速連写時のためミラーバランサーが採用され、クイックリターンミラーを作動した状態で撮影可能。動体予測AF撮影時でも機能する。
フィルム巻き戻し:モータードライブ、緊急時のための手動巻き戻しクランクが残されている。フィルム巻き戻しは2段階操作が必要
電源:単3型乾電池8個、専用バッテリー
大きさ・重さ: × × mm、1210g
ボディ:アルミダイキャスト製でペンタプリズムカバーはチタン合金製、この上に直接塗
装。各所に配置したOリングにより防塵、防滴構造となっている
デザイン:F3以降採用しているジュージアーロによる
その他:24項目のカスタムセッティング機能
ボディ価格:325,000円

F5はモータードライブやバッテリーパックを分離型ではなく、一体型としたために、ボディの高さが149mmと高く、重量も増えている。操作は、主に二つの電子ダイヤルと背面の十字ボタンで行うタイプで、その後のデジタル一眼レフに近い操作性になっている。
F5は、プロ用ニコンで始めて液晶パネルによる撮影情報表示やバッテリー情報、フィルムカウンターなどその後のデジタル一眼レフにも繋がる操作系統に変更されている。
単3乾電池8本使用で約1.4Kgの超ど級のボディは、あまりの重さに弟分のF100を使用するプロカメラマンも増えたが、その圧倒的な性能と高い安心感で、いざという時にはF5を使うユーザーも多かった。

[掲載文献]
ニコン一眼レフのすべて P52
小倉巌夫 「国産カメラ開発物語」 P220
カメラこだわり読本 P42
世界の名作カメラ100 P80
趣味のニコンカメラ P115
銀塩カメラ至上主義 P257
こだわりのカメラ選び P67
究極のニコンカメラ P128
絶対に今主義 P154
ニコンカメラのここが一番攻略百科 P21
20世紀☆カメラ P85
国産実用中古カメラ買い方ガイド P57
季刊クラシックカメラ

F90X 1994年


AFと連写速度の向上により動体撮影に強くなった、F-801の操作体系を受け継ぐF二桁機の最高峰。

形式:TTLマルチモードAE 35mm AF一眼レフ
露出制御:マルチプログラムオート、シャッター速度優先オート、絞り優先オート
マニュアル、イメージプログラム(ポートレートモード、シルエットモードなど7つのイメージプログラム)
測光方式:TTLマルチパターン測光(3D 8分割、8分割)、中央部重点測光、スポット測光(受光素子SPD)、
被写体までの距離を加味した新しい測光方式である3D測光
測光範囲:EV1~21
ISO感度設定:6~6400
露出補正:1/3段ステップ、±5EV
ファインダー:アイレベル固定式、視野率92%、倍率0.78倍
逆入光を防ぐアイピースシャッター装備。
スクリーン:交換式(2種類)、標準クリアマットⅠ
AF測距点:1点(予測駆動フォーカス)
シャッター:電子制御式 縦走りフォーカルプレーン
B、30秒~1/8000秒、シンクロ1/250秒
モータードライブ内蔵 4.3コマ/秒
フィルム給送:電動巻上げ、高速時最高4.3コマ/秒
大きさ・重さ:154×106×69mm、755g
価格:138,000円、XD150,000円、XS165,000円

F90シリーズは、1992年の初代機F90のデビュー以来、内外で実力派カメラとしての評価を高めてきた。プロの現場でも積極的に使われ実証されてきた。
専用コードで電子手帳と接続してカメラをコントロールしたり、世界24地域の現地時間とサマータイムに対応したデータバックなど、AF時代の本格的な電子化の先端を行くようなハイテクモデルとしてセンセーションを呼んだ。
F90XはマイナーチェンジモデルでAFの高速化(レンズ駆動速度が25%アップ)と高精度化、フィルムの巻き上げ速度が毎秒3.6コマから4.1コマにアップ、シャッター速度が1/3段の変更ができるようになったなど機能が大幅に向上し、より信頼性の高いカメラにステップアップしている。

F90シリーズは、最高のテクノロジーが惜しみなく投入された高性能機であり、フラッグシップ機であるF4を上回るAF機能を採用。中級機のジャンルに入るが、F-100に匹敵する位置づけのモデルであり、高級機といった方が当たっているモデルといえる。
同時に発売されたDタイプAFニッコールレンズを使用すれば、3D 8分割マルチパターン測光ができる他、スピードライト用の5分割センサーのデータに基づく3D マルチBL調光が可能となっている。このスピードライト自動調光システムは、発売当時はもちろん、現在においても頂点に君臨するもの。専用の外部ストロボを使用してFP発光モードを選択すれば、1/8000秒までスピードライト同調できるので、3D マルチBL調光を振る活用した撮影も可能となる。
1994年にAFのさらなる高速化などグレードアップしたのがF90Xである。
データパックのちがいにより3タイプがラインナップされているが、本体は全く同じ。
F-90XD:日付け、時刻などを写し込めるデータバックMF-25を標準装備
F-90XS:マルチコントロールパックMF-26を標準装備。日付け、撮影データの写し込みに加え、カメラボディ制御機能を搭載。AFブラケティング、スピードライトブラケティング、調光補正、多重露出などの機能。

別売りアクセサリーに縦位置グリップMB-10が用意されている。リチウム電池が使用可能となり、低温下での安心感が高くなる。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P108
趣味のニコンカメラ P121
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P61
写真工業 2007年 1月 №693 P
完カタ・中古カメラ Vol.5「今すぐ買える中古カメラ完全カタログ5」 P62

F4 1988年


(後期型)

ニコンフラッグシップ機初のAF機。ニコンF一桁モデルで初の縦走りシャッターを採用。
F3同様ジウジアーロのデザイン。F3に続きNASAにも採用された実力機。
F3から一気に巨大化したボディ。

マウント:ニコンFマウント
ファインダー:アイレベル交換式、4種類、視野率 100%、倍率 0.75倍
スクリン交換式(12種類)、クリアマットスクリーンⅡ標準
AF制御:ニコンアドバンス2000AFセンサー搭載。測距点は中央1点のみだが、クロス測距ポイントとなっていて、当時のトップレベルのフォーカス精度であった。
露出制御モード:プログラムオート、高速プログラムオート、シャッター速度優先オート、絞り優先オート、マニュアル
測光モード:測光モードセレクターはプリズムカバー右側に設置。
スポット、マルチパターン、中央部重点の3種類
スポット測光の範囲はスクリーン中央部の直径5mm部分を測る。
測光範囲:EV0~21
露出補正値:1/3ステップ、±2EV
ISO感度設定:6~6400 DXコード
シャッター速度:電子制御式、縦走りフォーカルプレーン、T、B、30~1/8000秒
X同調 1/250秒
シャッター速度切り換えはダイヤル式
プレビュー・ミラーアップ・AEロック・AFロック:
エプロン部に並ぶ3つのボタン。上はプレビューボタンで、押しながらレバーを回すとミラーアップされる。
中央がAFロックボタンで、同軸上のレバーを白とオレンジのマークが並ぶ方にセットしておくとAF/AE同時ロックとなる。
一番下はAEロックボタン
フィルム給送:モータードライブ内蔵、最高4コマ/秒
巻き上げ方式ダイヤルはメインスイッチを兼ねる。
フィルムを入れないと作動しない。空シャッター不能。
S:シングル、C:連続巻上げでCHは高速巻上げ、CLは低速巻上げ、CSは超低速巻上げを表す。
フィルム巻き戻し:R1レバーの中心部を押してロック解除し、レバーを捻りスプロケットをフリーにし、次にR2レバーを同様の操作をするとモーターで巻き戻す2ステップ操作。
手動で巻き戻すことも可能。
スピードライトのシンクロ接点:
ニコンのフラッグシップ機で初めてプリズムカバー上部にホットシューを採用。汎用品のフラッシュも普通に使えるようになった。
バッテリー:基本ボディのバッテリーパックは、単3型乾電池4本使用するMB-20型。
他に単3型乾電池6本を使うMB-21型(F4S)、とMB-23型(F4E)がある。
大きさ・重さ:168.5×117.5×76.5mm、1072g
ボディ価格:226,000円

FからF3まではチタン幕横走り式だったシャッターが縦走り式になり、スピードライト同調速度が1/80秒から1/250秒と速くなった。AEはFAで初採用された5分割マルチモードとなり、測光方式も中央部重点測光のみからマルチパターン測光、スポット測光、中央部重点測光が任意に選べるようになった。
先行するライバル機と違い、各操作部は伝統的なダイヤル式で、マニュアル感覚を濃厚に残したデザインであるがモーターが内蔵され巻き上げレバーが無くなった。
内部は金属だが外装にプラスチックを使用するなど、賛否両論はあったが、フラッグシップ・ニコンに劇的な変化を与えたのがF4シリーズであった。
スペック上に現れる機能に加え、ピントのヤマがつかみやすい優れたスクリーンと、明るく見やすい最高のファインダーという性能も絶賛された。歴代ニコンのナンバー1の秀逸なファインダーである。
AF測距点は中央1点だけだが、精度は高く信頼できるものであったが、合焦速度が遅く、F4を肯定する愛用者の多くは「AF機能付最高峰MF機」と評していた。
また、Ai以降のレンズであればマルチパターン測光が可能になる。非Aiレンズも装着でき、F3AF用のモーター内蔵レンズもAFレンズとして使える。
ニコンF4のライバルとして出てきたのがキヤノンEOS-1(1989年)である。ここで、ニコンとキヤノンの立場が逆転した。AF性能がキヤノンEOA-1の方が優れていたからである。
ただ、F4は「高性能MF機」と割り切って考えると、非常に優れたカメラであった。

本機は左肩が出っ張っているので後期型になる。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P106
2000-2001 カメラこだわり読本 P41
極上カメラ100 P70
20世紀☆カメラ1950~2000 P72
趣味のニコンカメラ P108
究極のニコンカメラ P122
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P30
絶対ニコン主義 P148
季刊クラシックカメラ№2 ニコン P25
図解・カメラの歴史 P215

F-801 1988年


史上初の1/8000秒シャッターを実現したAF一眼レフ。
1988年に日本光学工業が社名変更でニコンになり、初めて出したカメラ。
ブーメランが頭上のリンゴをぶった切る、衝撃のCMでデビューしたニコンAF一眼レフ上位機。

露出制御:デュアルプログラムオート、高速プログラムオート、プログラムオート、
シャッター速度優先オート、絞り優先オート、マニュアル
測光方式:マルチパターン測光(5分割)、中央部重点測光
測光範囲:EV0~21
露出補正値:1/3ステップ、±5EV
ISO感度設定:6~6400、DXコード
シャッター:電子制御式、たて走りフォーカルプレーン
シャッター速度:B、30~1/8000秒、X同調 1/250秒
ファインダー:アイレベル固定式、視野率92%、倍率0.75倍
AF測距点:1点
スクリーン:交換式(3種類)、クリアマットスクリーンⅡ標準
フィルム給送:電動巻上げ、最高3.3コマ/秒
電源:単3電池×4本
大きさ・重さ:153.5×102.5×67.5mm 695g(ボディのみ)
発売時価格:95,000円

F-801は、F-401、F-501の上位に位置し、スペック的に充実したF3桁シリーズの最上位機として登場。主な特徴は、
①世界最高速シャッター1/8000秒搭載。
②EV-1(マッチ1本ほどの明かり)でも合焦可能な高精度・高速オートフォーカス。
③逆光でも確かな露出を約束する5分割マルチパターン測光。
④マルチ制御バランスシンクロ、後幕シンクロなど多彩なフラッシュ撮影を実現。
⑤単3型乾電池4本で3.3コマ/秒の高速巻上げと、36枚撮りフィルム120本撮影可能な高性能モータードライブを内蔵。
などである。
AF一眼の合焦スピードは、測距素子の能力に大きく左右されるが、F-801に採用された測距素子はF-401のAM200にさらに磨きをかけた「アドバンスドAM200」。CPUによる測距情報の演算速度の向上、小型・高性能子アレスモーターのパワーアップなどがAFの総合的なスピードアップにつながっている。
精度の向上により、EV-1(ISO100、絞りF1.4、シャッター速度4秒)という超微光量下でも補助光無しでピント検出が可能になったことも大きな売りであった。
F-801に搭載されたマルチパターン測光は、FAで採用された本格的な5分割測光に、さらに手を加えたものである。定常光の撮影ばかりではなく、ストロボ光との密接度も高まっているため、より高度な露出制御が期待できる。
1991年に予測駆動AFとスポット測光機能を加えたバージョンアップモデルF-801Sが発表される。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P106
趣味のニコンカメラ P120
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P58

F-501 1986年


ニコンのAF一眼レフの第一号機。

これ以前にレンズ駆動方式によるAFを実現したニコンF3AFがあるが、ボディ側モーター駆動の本格AF一眼レフとしてはこのF-501が初である。
AF性能は発展途上だったが、自動巻上げ内蔵やDXコードによる感度の自動設定など、新時代の気風に溢れていた。
シャッターダイヤルが装備され、液晶表示が一切無いのも、現在の目には斬新だ。

露出制御:デュアルプーグラムオート、プログラムオート、高速プログラムオート、
絞り優先オート、マニュアル。
測光方式:中央部重点測光
測光範囲:EV1~19
露出補正値:1/3ステップ ±2EV
ISO設定範囲:12~3200、DXコード
ファインダー:アイレベル固定式、視野率92%、倍率0.85倍
AF測距点:1点
スクリーン:交換式(3種類)、クリアマットスクリーンが標準
シャッター:電子制御式、縦走りフォーカルプレーン
シャッター速度:B、1~1/2000秒 X同調1/125秒
フィルム給送:電動巻上げ、最高2.5コマ/秒
巻き戻し:手動、クランク式
フィルム終了時には、警告音とLEDが点滅。巻き戻しは左の解除レバーをスライドさせながら右のボタンを押し、手動でクランクを回す。
電源:単3型乾電池×4本(別売りホルダーで単4型乾電池も可)
バッテリー室はボディ下部。36枚撮りフィルム120本撮影可能。
大きさ・重さ:148.5×101.5×54.5、622g(ボディのみ)
発売時価格:89,000円

他メーカーのAF一眼レフの多くがボタンとレバーのデジタル操作と液晶表示を採用する中で、F-501は従来からのなじみやすいダイヤル操作を継承している。マウントも従来のAiニッコールとの互換性を保っている。それにはAFレンズが出揃っていないこの時期には、MFレンズを使わざるを得ない事情もあった。そのため明るさがF2.8以上のAiニッコールレンズならAF撮影が可能となるAFテレコンバーター「TC-16AS」も用意されていた。
AFモードは、ピントが合うまでレリーズしないフォーカス優先のシングルAF(S)とレリーズ優先のコンティニュアスAF(C)、MFの3モード。最高2.5コマ/秒(MF時)のモータードライブは、1コマ巻き上げと連続巻上げのどちらかを選べる。AFロックも装備されており、ボタンを押すとレンズ駆動が停止し、たとえシングルAF時でも、ピントに関わらずレリーズが可能となる。
撮影モードは、プログラムオート、絞り優先オート、マニュアル、TTLオートストロボが基本。プログラムオートは、標準と高速に加えて、装着するレンズによって2つのモードが自動的に切り替わるデュアルプログラムモードがあり、2本のプログラムラインを3つのモードで使い分けていた。
AEは中央部重点測光方式だが瞬間絞込み測光を採用していて、精度の保証はないものの旧レンズでのシャッター優先オートやプログラムオートも可能だった。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P102
20世紀☆カメラ1950~2000 P69
趣味のニコンカメラ P120
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P80
日本カメラ博物館「世界を制した日本のカメラ」 P26

New FM2(ブラック) 1984


(ブラック)

ニコンFMは、ニコンが初めて本格的にコンパクト設計に取り組んだモデル。マニュアルニコンの代表機で、中級機のスタンダード。

型式:機械式35mm判一眼レフ
シャッター:金属羽根縦走りフォーカルプレーン。B、1~1/4000秒。
セルフタイマー付き
視野率:約93%
倍率(50mm使用、∞時):約0.86倍
ファインダー:固定式。ファインダー・スクリーン交換可
露出制御:TTL中央重点測光SPD、マニュアル操作
ファインダー内露出表示:露出5段階(LED3個)
シンクロ接点:X接点。同調1/250秒以下
フィルム巻上げ:レバー一回式。分割巻上げ不可
フィルム巻き戻し:クランク式
電池:SR44、LR44またはCR-1/3×2、(3Vリチウム電池)×1
寸法・重さ(ボディのみ):142.5×90×60mm、540g
発売時価格(ボディのみ):72,000円(ブラックは76,000円)
50mm F1.2付 115,000円
50mm F1.4付 101,000円
50mm F1.8付 81,000円

写真学生からプロカメラマンまで広く使われ、2001年のFM3A発売まで発売された。

この時代、一眼レフに搭載されているフォーカルプレーンシャッターの最高速度は1/2000秒であった。これはプロ用の最高級システム一眼レフであるニコンF3、あるいはキヤノンニューF1、ペンタックスLXといったトップクラスのカメラでも同じだった。その限界の壁を創めて打ち破り、1/4000秒の最高速シャッタースピードを実現したのがニコンFM2だった。そしてFM2のマイナーチェンジ版がNew FM2である。
FM2では高速化のためにスクウェアタイプのシャッター羽根をチタンで作り、さらにケミカルエッチング処理により部分的に薄くして、極限まで軽くした。強度を保持するために格子状に厚い部分を残しており、その形が蜂の巣状になっているので、ハニカムパターンと呼ばれている。これはNew FM2にも受け継がれているが、後期になるとアルミ製に変更されている。
もともとこの高速フォーカルプレーンシャッターを開発した動機は、最高速1/4000秒の実現というよりむしろスピードライトの同調速度の高速化にあった。
あるプロ写真家の要求で、35mm判の画面が少々欠けてもいいから1/250秒を超える速度でスピードライトを同調したいという話がニコンに伝えられたのをきっかけだった。FM2でスピードライト同調が1/200秒になり、2年後に発売されたNew FM2で1/250秒を実現した。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P86
マニュアルニコンの全て P18
カメラレビュー・クラシックカメラ専科 №73 P52
MF一眼レフ名機大鑑
マニュアルカメラ全集 P11
国産実用中古カメラ・買い方ガイド100 P66
神立尚紀 図解・カメラの歴史 P173
極上カメラ100 P72

[修理マニュアル]
やさしいカメラ修理教室 P137

FA 1983年


(ブラック)

世界初の「マルチパターン測光」を搭載したカメラ。「分割測光」の元祖。
ニコンで初となる3方式(プログラムオート、絞り優先オート、シャッター速度優先オート)が搭載された。
初代カメラグランプリの栄冠に輝いた。これを記念して金メッキにトカゲ革を使用した限定モデル「FA Gold」も発売された。

形式:電子制御式35mm一眼レフ
露出制御:プログセムAE、シャッタースピード優先、絞り優先、マニュアル
レンズマウント:ニコンFマウント
ファインダー:ペンタプリズム使用アイレベル式、アイピースシャッター付き
視野率約93%、ファインダー倍率0.8倍
スクリーン交換可
測光方式:TTLマルチパターン測光、中央重点開放測光、瞬間絞り込み制御
ファインダー内表示:受光素子にマルチセグメントSPDを2個使用、
別にTTL調光用受光素子SPDを1個使用
露出計連動:Ai方式
ISO感度設定:12~4000
露出補正:1/3ステップ、±2EV
シャッター:上下走行式チタン膜メタルフォーカルプレン・シャッター
シャッタースピード:P、Aモード、8~1/4000秒(無断階)
S・Mモード、8~1/4000秒(13階) メカニカル、B、1/250秒
セルフタイマー:作動時間10秒
シンクロ接点:X接点のみ、1/250秒以下でスピードライトに同調
電源:3Vリチウム電池(CR1/3N)×1、1.55V銀電池(SR44)×2
1.55Vアルカリマンガン乾電池(LR44)×2のいずれか
寸法・重さ:142.5×92×64.5mm、625g(ボディのみ)
発売時価格:50,000円(ボディのみ)
50mm F1.2付 165,000円 50mm F1.4付 151,000円 50mm F1.8付 135,000円

現在のAFカメラでは、電子接点による情報伝達を行っているが、レンズとボディ間の伝達を機械式で行う当時のシステムでは究極の自動露出カメラであった。電子接点のないAi-Sレンズを装着して、プログラムオートとシャッタースピード優先オートを使用できるのはFAだけである。

TTL露出計は全てのレンズを通った被写体の明るさを、平均して反射率18%のグレー相当に再現するように設定されている。画面に強い光源が入ったり、逆光では主要被写体が暗くなってしまい(露出アンダー)、黒い背景では主要被写体が明るく写りすぎる(露出オーバー)。それを改善するために、中央部重点測光、部分測光、スポット測光など、さらには露出補正機構など、さまざまな試みがなされたが根本的解決にはならなかった。そこで、撮影画面の中をいくつかの部分に分割して、夫々の明るさを測定して、コンピュータ制御により最適な露出を決める「多分割測光」という考え方が生まれてきた。この方式の元祖は、アナログ算出方式ながら画面を2分割して測光するミノルタSR101で採用されたCLC方式(1966年)だが、その後の電子技術の進歩により、画面をさらに細かく分割し、最適露出をコンピュータで算出、制御することが可能となった。この方式を実用化したのがニコンFAである。

1977年、日本光学のカメラ部門では2つの開発チームが設けられた。1つは1/4000秒の高速シャッターを実現するチーム。もう一つは1983年登場のニコンFAに搭載されたマルチパターン測光の開発チームだ。ニコンFAはこの測光方式が賞賛され第一回カメラグランプリを受賞した。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P94 趣味のニコンカメラ P78
写真工業 2007年1月号(Vol65 №693) P40 MF一眼レフ名機大鑑 P386
カメラレビュー・クラシックカメラ専科 №77 P72
国産中古カメラ・買い方ガイド100 P65
神立尚紀 図解・カメラの歴史 P 174

FG 1982年


ニコン初のプログラムAEを搭載したモデルで、小型シリーズ最上位機。愛称「プログラムニコン」

形式:電子制御式35mmフォーカルプレーンシャッター一眼レフ
露出制御:プログラムAE、絞り優先AE、マニュアル
レンズマウント:ニコンFマウント
ファインダー:ペンタプリズム固定式、視野率92%、倍率0.84倍
スクリーン:固定、スプリット・マイクロ式
測光方式:TTL中央部重点測光
露出計連動:Ai方式
露出補正:1/2ステップ、±2EV
ISO感度:12~3200
シャッター:電子制御式金属羽根縦走りフォーカルプレーン、
B、1~1/1000秒、セルフタイマー10秒
機械式1/90秒、X同調1/90秒
シンクロ接点:X接点のみ、1/60秒以下でスピードライトに同調
フィルム給送:レバー巻上げ、モータードライブ装着可(MD-E、MD-14)
電源:3Vリチウム電池(CR1/3N)×1、
1.55V銀電池(SR44)×2、1.5Vアルカリ電池(LR44)×2のいづれか
大きさ・重さ:136×87.5×54mm、490g
価格:61,000円(ブラックは4,000円高)

小型・軽量をコンセプトにしたEMの後継機でありながら、AEにプログラムAE、1~1/1000秒の機械式シャッターを組み込み、実用面を強化した。プログラムモードの搭載はニコンではFGが初。また、普及機クラスでは唯一スピードライトのTTL同調も可能となっている。
FGが発売される前年に登場したAi-Sレンズは、シャッタースピード優先に対応しており、絞りレバーの動作が等間隔になる改良がなされていた。プログラムAEを実現するには、それに加えてボディ側の絞り連動レバーのストロークに等間隔で絞り停止位置を設定し、ボディから絞りをコントロールする機械的な改良をする必要がある。FGはその第一号機。
またEMで省略されていた正面左上の機種名の刻印が復活。デザインの変更があった。
露出表示はLED表示だが、シャッター速度を点灯したLEDで確認するものなので、針式の表示方法に近く、FMなどの3点式LED表示よりは細かい確認ができる。
また、FG-20やEMでは固定式であった裏蓋が、FGでは取り外し可能になっている。別売りのデータパックMF-15を取り付ければデートの写し込みも可能。
FGはEMより少しFMシリーズ寄りになっている。EMよりやや大きめだがF3よりは断然小さい。
FGの後継機は、1084年発売のFG-20で、プログラムAEとTTL調光機構を省略したEM系列の最終モデル。小さいEMが「リトルニコン」ならばFG-20は「ライトニコン」と呼ぶくらい軽く、金属ボディを採用しながら重さは440gでニコンのMF機の中でFE-10、FM-10の次に軽量なモデルであった。またFG-20はセルフタイマーレバーが横向きになっている。

[掲載文献]
趣味のニコンカメラ P81
CAPA ニコン一眼レフのすべて P97
究極のニコンカメラ P111
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P78
金属カメラオールガイド P107

EM 1980年


(ブラック)

1980年にF3と同時に発売された、FM、FEシリーズの弟分として「リトルニコン」と呼ばれた、限界までコンパクト化された一眼レフ。「誰でも簡単に使えるカメラ」をコンセプトに開発された。
デザインはジョルジェット・ジウジアーロ。露出モードはビギナーを意識して絞り優先AEのみ搭載。
EMはニコンで初めて上下カバーにプラスチックを採用したカメラで、発売当時は、あのニコンがプラスチックボディのカメラを作ったと揶揄されたが、内部は手抜きのないダイキャスト製である。

形式:電子制御式35mm一眼レフ
露出制御:TTL絞り優先AE専用
レンズマウント:ニコンFマウント
ファインダー:ペンタプリズム使用アイレベル式、視野率92%、ファインダー倍率0.86倍
測光方式:TTL中央部重点測光(受光素子SPD)
マウント向かって右に逆光補正ボタン、ワンタッチで±2EVの補正が可能
AEロックなし
ファインダー:スクリーン固定、スプリットマイクロ式
露出計連動:Ai方式
シャッター:セイコー製、電子制御金属幕縦走行フォーカルプレーン、BとXは機械式
シャッタースピード:Aモード、B、1~1/1000秒(無断階)、マニュアル1/90秒
セルフタイマー:作動時間10秒
シンクロ接点:X
巻き上げ:レバー式、小刻み巻上げ可
電源: 1.55V銀電池(SR44)×2、1.55Vアルカリマンガン乾電池(LR44)×2のいずれか
ボディ:プラスチックボディ
寸法・重さ:134.5×86×54mm、444g(ボディのみ)
発売時価格:40,000円(ボディのみ)50mm F1.8付60,000円

ニコン一眼レフのボトムエンド機として登場したEM。同時期に低価格のEレンズも発売されたが、日本ではニコンは高級なイメージから評判が良くなく、1982年にはプログラムAEと手動露出を追加したFGを投入。1984年には再びプログラムAEを外したFG-20を発売した。

EMは当初主にアメリカ市場における戦略商品に位置づけられ、発表もF3に先立って1979年3月シカゴで開催されたPMAショーで行われた。
ニコンの一眼レフはとにかくゴツく、女性の手に余るものも少なくない。EMはそんなニコン一眼レフと対極に位置するカメラで、女性が積極的に使えるカメラ造りをコンセプトにしていたという。うわさでは「女性専科」がEMの開発時の合言葉だったといわれてる。
アメリカ向けは逆光補正ボタンが青色である。

巻き上げレバーはニコン初の「中折れ式レバー」を採用。予備角のない144度の巻上げ角だが、この中折れ式レバーを引き出すことが予備角の代わりになる。また、上級機のFMやFEでも採用されなかった小刻み巻上げが可能になっている。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P96 趣味のニコンカメラ P80
究極のニコンカメラ P110 極上カメラ100 P75
ニコンカメラのココが一番・攻略百科 P76 マニュアルカメラ全集 P13
20世紀☆カメラ1950~2000 P60 入門金属カメラオールガイド P107
季刊クラシックメラ№4 「厳選19機種国産35ミリ一眼レフの名機」 P40
CAPAニコンカメラの買い方マガジンVol.6 「ニコンカメラのココが一番攻略百科」 P76、89
ノスタルジックカメラマクロ図鑑 P126、143
カメラレビュークラシックカメラ専科 2005年 78号 P
国産実用中古カメラ買い方ガイド100 P68
中古カメラウイルス図鑑 P112

[修理マニュアル]
ジャンクカメラの分解と組み立てに挑戦 P104

F3 1980年


(スピードライトSB-17)

形式:電子制御式35mm一眼レフ、ファインダー着脱式
露出制御:絞り優先AE、マニュアル
レンズマウント:ニコンFマウント
ファインダー:視野率約100%、ファインダー倍率0.8倍、アイピースシャッター付き
シャッター:横走行式チタン膜メタルフォーカルプレン・シャッター
シャッタースピード:オート、8~1/2000秒(無断階電子制御)
マニュアル、T、B、X、8~1/2000秒(18階クォーツデジタル制御)
セルフタイマー:作動時間10秒
シンクロ接点:X接点のみ、1/80秒以下でスピードライトに同調
フィルム巻上げ:一作動レバー式、分割巻上げ可、
モータードライブMD-4による自動巻上げ可
電源: 1.55V銀電池(SR44)1.55Vアルカリマンガン乾電池(LR44)のいずれか2個
または3Vリチウム電池1個
寸法・重さ:148.5×96.5×65.5mm、700g(ボディのみ)
発売当時価格:13万9000円
50mm F1.2付 189,000円
50mm F1.4付 175,000円
50mm F1.8付 159,000円
デザイン:ジョルジェット・ジュージアーロ(イタリアのカーデザイナー)

F3のバリエーションは7種類ある。
20年間のロングセラーであった。

[掲載文献]
CAPA ニコン一眼レフのすべて P44
2000-2001 カメラこだわり読本 P39
名機を訪ねて P431
ノスタルジックカメラ・マクロ図鑑 Part1 P124
マニュアルカメラ全集 P10
MF一眼レフ名機大鑑 P310
こだわりのカメラ選び Part1 P88
カメラレビュー・クラシックカメラ専科 №78 P42
国産中古カメラ・買い方ガイド100 P61
中古カメラウイルス図鑑 P182
神立尚紀 図解・カメラの歴史
極上カメラ100 P66